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夏日山居-魚玄機

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すでに紹介した魚玄機。彼女はやはり魅力が尽きない。遊里に生まれた才気溢れる彼女は咸通元年、李億補闕の妻妾として仕えることとなる。が、人の心は変節する。夫李億の彼女に対する愛が衰えて、他の女に移ると、魚玄機は山を下り、咸宜観に隷して女道士となる。その時に山に入り詠ったもの。山は長安にあったとされる。李憶の束縛から解かれ、自由を得た境涯を謳歌するのと同時に、愛を自分では選べない当時の女性の立場の寂しさを覚えさせる作品だ。自らの才を頼む自立志向と男への愛慕の狭間で揺れ動くアンビバレンツな女心は実にいじらしい。これが彼女の魅力なのだ。

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仙居を移し得て 此の地に来たる
花叢 自ずから偏く 曾て栽ゑず
庭前の亞樹 衣桁を張る
坐上の新泉 酒杯を泛ぶ
軒檻 暗に傳う 深竹の径
綺羅 長に擁す 亂書の堆
閑に畫舫に乘って明月に吟じ
信任す 輕風の吹いて卻回するに

仙人の住まいの我が家は引っ越しをして、この山間の地にやってきた。
群生する花々は自然に広がっていったもの、人が植えたのではない。
庭先の低く枝を広げる木には衣装を掛け、
居閒近くに湧き出た泉には酒杯を浮かべる。
外の長い廊下の先には奥深い竹林の小道に通じ、
部屋の中では美しい着物が、散らばる書物の山にかけてある。
暇なときには舟遊びの舟に乗って名月の下で詩を吟じ、
その風が舟の向きを変えようと、(わが人生も)風まかせ、船まかせ。

(NHKラジオテキスト、佐藤保箸:『漢詩をよむ』から)

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