本日の一冊
- 2013/05/03 21:03
- Category: 書籍
- Tag: 漢詩
ちょっと高価(7,140円)だったが、気持ち抑え難く思わず購入。『詩語辞典』。漢詩は所謂漢和辞典のみでは作れない。私は『新字源』を用いているが、個々の漢字の平仄や平水韻は分かっても、熟語が勝手には作れないのだ。まあ、日本語的にはいくらでも可能ではあるが、それはJapalishと同じ。
漢詩もいろいろで、自由詩もいくらでもOKなのだが、やはり歴史の中で洗練された形式が大切。漢字には発音の語尾によっていわゆる四声-平声、上声、去声、入声-がある*1。この後者3つを仄(そく)の音と呼び、漢詩はこの平(○)と仄(●)の並びの規則がかなり細かいのだ。例えば七言絶句(7字×4句)の場合-
・二四不同、二六対(2番目と4番目は異なり、2番目と6番目は同じ)
・下三連禁止(5,6,7字目が同じ平仄で3つ連続は禁止)
・孤平の禁止(4字目が平の時、●○●を禁じる)
・同字は使用禁止(但し、蕭蕭などは除く)
・粘綴則(ねんてい、奇数行から偶数行に移る時は2,4,6番目の平仄を入れ替え、反対の場合は入れ替えない)
・1,2,4句の7字目は韻を踏む。原則は平韻だが、仄韻もあり。3句目の7字目は逆の平仄にする
かくして起・承・転・結として完結する*2。この形式は中国語の古典形式で音読みする場合、響きが美しいのだ。韻も平水において百六に分類されている(平水韻)。すべての漢字をこのように分類することもすごいが、形式がこのように歴史の中で洗練されてきたことにも感嘆する。なお、第1句の2字目が平から始まる場合を平起式、仄からを仄起式と呼ぶ。
かくしてこの制約の中で28マスの中に漢字を並べるわけだが、この点ではパズルだ*3。この時にある程度のブロック、すなわち詩語が必要となるのだ。かくして漢詩作りはジグソーパズルとも言える。もちろん自分で単漢字を組み合わせてもよいだろうが、やはり本物を用いたい。と言うわけで、この本を購入と相成った次第。実はPCのソフトでも漢詩作製支援ソフトがあるのだが、やはり辞書を引くことの楽しみがまた格別なのだ。ちなみに高校時代、英和辞書をすべてのページに赤線を引くことを目標とし、真っ赤になった辞書は実に愛着が湧き、肌身離さず持ち歩いたものだ。で、漢字が自分の詩想にぴたりとハマった瞬間が実にカイカンなのだ*4。ジグソーパズルの完成の瞬間と似ているかもだ。これで理系オツムの私も見事にハマったのだ。そう、音楽も数学だと納得したが、漢詩も数学だ*5。どうもこのふたつ、これからかなりのめり込みそうな予感がしている*6。
*1:現代中国語のそれらとは異なる。
*2:このルールで7×4マスを○と●で埋めると何通りの順列組合せが可能か、とすると立派なセンター試験レベルの数学の問題となる。
*3:実際には単漢字を入れることはなく、2,2,3のリズムで決まる。
*4:まあ、所詮素人の自己満足でもあるわけだが、いずれ誰かに師事してみようかとも・・・。
*5:数学でひとつの定理を作った瞬間とか、証明し得た瞬間は、ある種の数学的世界がきわめてヴィヴィッドに見えるのだ。漢詩も同じ。そこに世界が生まれるカイカンと言える。→絵画と音楽と数学と(Dr.Luke的芸術論)
*6:音楽はSalt氏に手ほどきを受けつつ進めたいと思っているのだ、今後ともヨロシク!