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唐の時代も現代も変わらないのは男と女

 

ここで何度も紹介しているが、唐代に魚玄機という容色に秀で、漢詩の才にも恵まれた女がいた。彼女は同じく女流詩人薛涛(せっとう)に比されるも、生まれが色里。十代の頃から白居易の長恨歌を諳んじ、作詞の才も見せた。当時の漢詩の大家の温の下で学ぶが、彼の友人の官吏李億の目にとまり、妾となる。が、彼に身を委ねることがなく、李億は悶々とし、妻にばれる。ふたりは泣く泣く別れ、玄機は道教の寺院に入る。が、19歳の彼女、そこでかえって女として目覚め、年下の陳という逞しい男と密やかな関係を持つ。ところが自分の侍女と陳の関係を邪推した玄機は、嫉妬に狂い、侍女を殺す。かくして玄機は処刑され、その激しくかつ美しくも悲しき人生は露と消えた。享年26歳。女としてもっとも輝く年頃だった。

魚玄機については森鴎外も小説にしている。絶世の美女、しかも才女。が、生まれは色里。しかるべき家に生まれていれば、それこそ女流詩人として世にも出ることができたであろう。その情の激しさと深さとともに、まことに物語になる資質に恵まれている。極私的にもこんな女性には少なからず惹かれる。やや瀬戸内寂聴的でもあるが、残念ながら寂聴さんは私の好みではない(すみません・・・)。そんな彼女の詩を二首紹介してみる。

秋怨
自ら嘆ず多情は是れ愁い足しと
況や風月 庭に満る秋に當るをや
洞房 偏へに更聲と近し
夜夜 燈前に 白頭ならんと欲す

情の多いのは愁いも多いことを自分自身も嘆いている
まして、さわやかな風と月影が庭一面に満ちている秋にはなおさら
それにわたしの部屋は時を告げる鐘の音に近いから
毎晩灯火の前であの方を待つうちに白髪になってしまいそう

愁思
落葉 紛紛 暮雨に和す
朱絲 獨り撫して 自から清歌す
情を放ちて 恨むを休む 無心の友を
性を養いて 空しく拗(なげう)つ 苦海の波
長者の車音 門外に有り
道家の書卷 枕前に多し
布衣 終に雲霄の客と作(な)るも
綠水 青山 時に一過せよ

木の葉がはらはら舞い落ち、夕暮れの雨ととけている
わたしは独り琴の赤い玄を爪弾きつつ、しずかに歌う
もう思いつめるのはやめて、薄情な人を恨むのをよそう
どんなに本性を養う修行をしても、苦しい現世からの解脱はできない
待っているお方の車の音は門の外を過ぎるだけ
道家の書物は枕元にうずたかく積まれているだけ
低い身分から高官になっても
川遊びや、山を散策するときくらい、わたしのところに訪ねてきてほしい

漢詩は基本、男女の情愛を詠うことは少ない。ゆえにオツムがコチコチの連中のものと思われている。大体、漢字自体がうっとおしいという若い人も多いかとは思う。が、アニハカランヤ(これ漢文のイディオム)、玄機や薛涛のような女流詩人の作品はかなり艶っぽい。嫉妬も情愛も、やはり昇華した上で表現するものだ。それが音楽や芸術や詩・文学の動機。要するにすべては人間の営みであること。神の形として創造されたたものの、誘惑により罪に堕ちた人間、生まれたくて生まれたわけでなく、死にたくて死ぬわけでない。好きになりたくて好きになるわけでなく、別れたくて別れるわけでない。まことに人間って切なく哀しき存在、しかし愛おしむべき・・・。

嫉妬、それはあまりにも人間的な、激しくも悲しき性。そこから詩や文学あるいは絵画が生まれる。ベッキーちゃんの事件で改めて男と女は唐の時代から何も変わっていないなぁ、としみじみ思わされたところではある・・・

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