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Dr.Lukeの一言映画評

午前はプールとサウナ。午後はランチと映画と巡航モード。

今年はブラック・スワンの年であると1月22日に予言した。あるいは白いカラスの年。自然科学の方法は不完全帰納法。要するに昨日見たカラスは黒、その前も、少なくとも自分がこれまでに見たカラスはみな黒。だから「カラスは黒い」という命題をあたかも真理であるかのように信じ込む。しかし、世界のすべてのカラスを調べてはいないから、その命題は全称命題*1としては成立し得ない。サイエンスはこのような論理の上に構築されているに過ぎない。つまりサイエンスの本質は信仰なのだ!真にサイエンスを知らない者が、信仰と科学を対立させて、己の無知を露わにしているに過ぎない。ファクトには常に例外や想定外があるわけ。今回の原発事故を見れば明らかだろう。かくしてあり得ない事(アリエンティ)があり得る(アリエルティ)のが2011年だ。いや、これからますます・・・だ。

参考:科学と信仰

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で、前置きが長くなったが映画はナタリー・ポートマンの『ブラックスワン』。ヒッチ・コックとはやや異なるも、かなり怖いサイコスリラー。しかも妄想と現実の区別のつかなくなるこの手の人々は常にいるのだ。特にニッポンキリスト教には統計的に有意に多いと思われる。

ニューヨーク・シティ・バレエ団のバレニーナ・ニナは、純真で繊細な“白鳥”と、妖艶に王子を誘惑する“黒鳥”の二役を踊る「白鳥の湖」のプリマドンナに大抜擢される。しかし優等生タイプのニナにとって“白鳥”はともかく、悪の分身である“黒鳥”に変身することは大きな課題だ。初めての大役を担う重圧、なかなか黒鳥役をつかめない焦燥感から、精神的に追い詰められていくニナ。さらにニナとは正反対で、“黒鳥”役にぴったりの官能的なバレリーナ・リリーが代役に立ったことで、役を奪われる恐怖にも襲われる。ニナの精神バランスがますます崩壊する中、初日は刻々と近づいてくる…。

この精神が崩壊する過程をきわめて精緻かつダイナミックに描いている。自傷行為をする若い女の子たちはたいてい母親との関係が病んでいる。ある面、母親が自分の満たされていない要素を娘によって代償的に満たそうとすることが、娘側にとっては精神的搾取となるのだ。実にその辺りの病理がリアルに描かれている。ドラッグに手を出す過程もまさに、だ。そして多くの場合、性的要因が絡む。いわゆるクリスチャンであっても、霊とセックスする女性もいるのだ。この霊をIncubus/Succubusと称する。前者は主に女性を誘惑し、後者は男性を誘惑する霊だ。

劇中、オードリー・ヘップバーン似のナタリー・ポートマンが自慰やレズ、さらにドラッグのシーンなども含めて、役に飲み込まれて現実と妄想の境界を喪失し、精神が崩壊していくバレリーナを鬼気迫る演技で見せている。まさに美しき狂気。狂気も美に彩られると危険かつ妖艶な魅力がある(まあ、ブ●が狂ってもあまり魅力はないもんなぁ・・・)。どことなくその出世作『17歳のカルテ』のアンジェリーナ・ジョリーを彷彿とした。しかしドッペルゲンガー現象(自己像幻視)は怖い。いつも自宅に帰ってドアノブを回すときに思うのだ。もしインターフォンを鳴らして自分の声が返事をしたら怖いなぁ、と・・・。

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このように自分が相手にライバル意識を抱くほどに相手が自分を蹴落とそうとしていると感じる精神病理を「投影」あるいは「投射」と呼ぶが、この心理はパラノイドに発展する。周囲がみな敵に見えてしまうのだ。かくしてヒトラーなどの独裁者などはいわゆる粛清に走るのだ。対してこの映画では自分を自分で粛清してしまうわけだが・・・。とっ、ネタバレになるので、この辺で・・・。とにかく実に怖い映画ではある。

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ナタリー・ポートマンはイスラエル生まれ、幼少時にバレーも習っていたようだ。私的にはアルパッチーノの『ヒート』で印象に残り、その後『スターウォーズ3』のパドメ役でその姿が焼きついた。そしてわがfavoriteな『マイ・ブルーベリー・ナイツ』でのレスリー役。かなりの才女だそうだ。

・・・で、これから本日のディナー、家族が集合する日なので、ステーキハウスにて・・・。

*1:「∀x f (x)」の形の命題を言う。「すべてのxについてf が成立する」と読む。例外がひとつでもあればこの命題は偽となる。これを反例と言う。自然科学は反例に満ちているのだ。

Comment

ISAIAH BEN HUR

Lukeさんの映画評は面白いと言うか、勉強になります。私も早速観てこようと思います。感想を後ほど書きます。ニッポンキリスト教にはこの種のネタが山ほど転がっている気もしますけどね。。。

  • 2011/06/04 23:10
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