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Dr.Lukeの一言映画評

朝のジョッギングは午前様のためカット、午前はプールとサウナ。睡眠不足や疲労時にも泳ぐとむしろ生き返る。午後は映画。周防監督の『終の信託』。

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呼吸器内科医の折井綾乃は、同じ職場の医師・高井との不倫に傷つき、沈んだ日々を送っていた。そんな時、重度のぜんそくで入退院を繰り返す患者・江木秦三の優しさに触れて癒やされる。やがて、お互いに思いを寄せるようになる二人だったが、江木の症状は悪化の一途を辿る。死期を悟った彼は、もしもの時は延命治療をせずに楽に死なせてほしいと綾乃に強く訴える。それから2ヵ月、心肺停止状態に陥った江木を前に綾乃は激しく葛藤する。

治る見込みのない重度のぜんそく患者の運命を託された綾乃。彼女自身も不倫に疲れ、自殺未遂的な事件を起こす。自身も無力な患者として死に直面する意識を味わい、死を受け入れようとする彼に感情移入し、ある意味、客観的医学的な判断を怠る。そこで最期に「楽にしてあげる」と、気管挿管を外し、暴れ出す患者を必死に抑えつつ、セルシンと致死量の致死量のドルミカムを静注する。かくして数年後、殺人罪で告発され、検事の巧妙な誘導により「殺した」と自供、逮捕起訴・・・。

うーん、これは重い作品だ。江木と綾乃の大人の恋愛物語とも言えるが、終末期医療の問題がテンコ盛り。そう、あの川崎共同病院のS女医による安楽死事件とモチーフが同一。かなり前にも書いたが、このS医師とは間接的にちょっとつながりがあるのだ。愚かなマスゴミが「美人女医による猟奇的殺人事件」的に取り上げたため、事件の本質的論点から外れ、詳細は書けないが、彼女の家族・親族も相当の悲劇を経ている。彼女は著書も著した、題して『私がしたことは殺人ですか?』。

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事件の経緯はこちらにまとめられてある:

同病院の公式見解:

『Shall we ダンス?』の周防チームの再来であるが、冷徹な検事役の大沢たかおと、これまた冷たい不倫相手を演じた浅野忠信が実に存在感を醸していた。特に自分の裏切りにより"自殺"を図った綾乃をベッドに見舞う高井(浅野)が吐く捨てゼリフがこわい、「バカなやつだ。睡眠薬で死ねるわけがないだろ。おれを病院から追い出すためか!」・・・。この傷心の中で江木に感情移入していくわけだが、臨床医にとってこれはきわめて危険なのだ。二人の間である種のカプセル化が起きてしまうのだ。かくして世の論理とは齟齬を生じ・・・。と、これ以上はご自分でどうぞ。

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