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Dr.Lukeの一言映画評

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宮本輝原作の『草原の椅子』。人生を振り返るべき年代50台、自分の人生は何だったのか、そんな基本的疑問を提起する純文学的物語。

バツイチで、年頃の娘と二人暮らしの遠間憲太郎に、50歳を過ぎて三つの運命的な出会いが訪れる。ひとつは、取引先の社長・富樫に懇願され、いい年になってから親友として付き合い始めたこと。もうひとつは、ふと目に留まった独り身の女性貴志子の、憂いを湛えた容貌に惹かれ、淡い想いを寄せるようになったこと。3つめは、親に見離された幼子、圭輔の面倒をみるようになったこと。憲太郎、富樫、貴志子の3人は、いつしか同じ時間を過ごすようになり、交流を深めていく中で、圭輔の将来を案じ始める。年を重ねながら心のどこかに傷を抱えてきた大人たち。そして、幼いにも関わらず深く傷ついてしまった少年。めぐり逢った4人は、異国への旅立ちを決意する。

なかなか大人のしっとりとした味わいの作品。佐藤浩一の重厚な、しかしどこかユーモラスな演技が光った。人生は出会いと言われるが、まことにその不思議な運命的出会いによる人生の転機。三人の大人の出会いとその後の展開が実にシリアスにして軽妙に描かれている。

それにしても「愛こそすべて、すべての人は神の子だぁ」と叫び、生活は破たんし、圭輔を捨てる父、そして3.11の被災から絆がすべてと涙しつつ、やはり子供を捨てる母。いや、これはどこぞによくあるパターンではないか?その常識からかい離した自己内世界に生きる者の「自然な自明性の喪失」による不気味さは(ニッポン)キリスト教の臭いだ*1

ここでも、やはり、自分の来し方を振り返ってみて、「アム・アイ・ハッピー?」なる質問にどう答えるかが問われるのだ。自分が真にハッピーであるかどうか、それは自分の心がもっともよく知っている*2。ハッピーな人はあえて自分がハッピーとは叫ぶ必要はないのだ*3。そこで、新学期のキャッチコピーを思いついた、「キミたち、じわっとハッピーしてる!?」。大人のあなたに薦める秀作。

*1:実際に子供を捨てずとも、子供の心を捨て子同様にし、子供をスポイルするのがキリスト教的教育。いつも言うが、子供はCSなどではなくエジプト(世)で育てるべきなのだ。モーセ、ヨセフ、ダビデなど、みな世で訓練されたのだ。良き地(宗教)には親の資産を食いつぶす愚かな兄たちがいたのだ。
*2:人は偽れても、自分の心を対話する時、偽ることができない質問なのだ。
*3:あえて何かを叫ぶとき、その欠如を感知するのだ。満たされている人はただ満たされているのだから。

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