Dr.Lukeの一言映画評
- 2009/07/10 11:13
- Category: 映画
手塚治虫の『MW』。人間の根源的な邪悪性を扱った作品のため、これまで映像化は不可能だと言われていた。幼少期にトラウマ的体験をした賀来と結城。長じて賀来は神父となり、結城は有能な銀行マンとなる。が、彼らは禁断の関係にあり、結城の心は実はモンスターと化していた。かくして結城はグロテスクな復讐を試みる。毒ガスMWによって東京都が壊滅寸前に追い込まれるとき、賀来はキリストの贖罪的行為を取る。かくして東京は救われるのだが、実は・・・。
邦画にしては見応えのある作品だった。やはり原作次第であり、鍵は甘ったるいヒューマニズムなどに流れずに、悪を徹底的に描くことだ。結城役の玉木宏が冷酷なまでの悪をよく演じていた。手塚作品は鉄腕アトムのように夢と希望を与えるものはあまり本質ではない。実は本作品のように彼の本質は実に暗いのだ。彼はおそらくニンゲンの本質を知り、それにある意味絶望していたのと思う。その反動として万能ロボットアトムが生まれたりもしたが、彼の本音は『火の鳥』の輪廻的虚無感や、『ブラックジャック』の根底にある社会への怒り、『陽だまりの樹』や『アドルフに告ぐ』に描いた人間の歴史の愚かさや不条理にあるのだ。
彼は晩年『聖書物語』を描いていたし、作品のどこかにイエスの十字架のイメージが散りばめられている。果たして彼が救いを受けたのか否か、これは私たちには知る由もないが、イエスと共に十字架につけられたあの強盗の運命を見、この方をどなたとみなすか、これがすべてを決めることを思うとき、極私的には光を感じている。
細木
>彼はおそらくニンゲンの本質を知り、それにある意味絶望していたのと思う。
もっとたくさんの人達に絶望してもらいたいと思う時があります。