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本日の一冊

ファイル 884-1.jpgやや専門書になりますが、『脳と心的世界-主観的経験のニューロサイエンスへの招待』(星和書店)。精神分析は元々は神経生理学者であったフロイトが、彼の意識の上では大脳生理学の根拠の上に臨床的観察から構築した理論体系だった。しかしある時点から思想となり、やや机上の空論的色彩も強まった。が、これは私自身の確信でもあるのだが、精神分析には必ず神経生理学的根拠がある。

本書でもほとんど同じ問題意識から、精神分析の諸々の概念の神経生理学的根拠を(まだ仮説だが)、興味深く提示している。「私」の意識とはどのようなニューロ回路によって発生するのだろう。著者は「私」の意識は、内臓意識と環境意識によって成り立つとしている。この二つの意識を結合させる意識を中核意識と呼び、これが「私」の精神過程の基礎であるとする。さらに情動や欲求などの問題、言語の考察、精神分析と神経生理学の将来像を提示する。

人間の存在にとって本質的な部分は、私が指摘しているとおり、大脳辺縁系にあるのだ。これを無視したウェスレー的「まったききよめ」とかカルヴァン的救済論(TULIP)がいかに人間疎外を生むか、そして人を狂気へともたらすか、人間性を忘れた神学の恐ろしさを知ることもできるだろう。不毛な神学論争をやめて本書を読むべきだろう。というわけで、私の講義でも大体同じような問題意識で進めているが、実に参考になる。関心のある方には強くお勧めする。

mixiコミュの「霊精神身体医学研究会」の参考書としても使えますね。

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