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人生の積み残し

当時、20歳の春、僕は慶応ボーイ。あるところで僕は何かの作業をしていた。
すると後ろから彼女が声をかけてきた。
「そんなことやって、何の意味があるの?」
「はあっ?」、僕はムッとして、その時は無視した。
が、山口百恵とよく似た切れ長の目をしたとても美しい顔だちが僕の心に焼付いた。
それから、事あるごとに彼女が干渉してきた。
そしていつの間にかお互いを意識し合い、心を確かめつつ、関係を深めていった・・・
続き
ある夜、確か、新宿の住友ビルのトップにあるアシベパークだったと思う。
当時僕は、事あるごとに友達とそこに通っていた。
眼下の東京の夜の光がまたたく夜景を眺めながら、ぶっきらぼうに彼女に言った、
「結婚しよう」
彼女もぶっきらぼうに答えた、「わたしにあなたのために炊事洗濯をさせるの?」。
ぼくは「うん?」と思った。が、それは彼女の心からの回答だったのだ。彼女はどこか臆病で素直に感情を現わさない傾向があった。ちょっと屈折していた。

また別の夜、ディスコでだったか、彼女の横顔を見つめつつ、ぽつりとつぶやいた、
「まゆ(仮名)って、横顔、百恵ちゃんそっくりだね」。
彼女はキッと振り向いて言った、「じゃ、これから横顔だけ見せましょうか!」。
「えっ!?」っと、僕は面食らった。ほめたつもりなのに・・・。
それくらい、女性の気持ちを理解してやれないお子ちゃまだったのだ。

ある夏の日、西武園にドライブに行くことになった。
レンタカーを借りて池袋でおち合うことにしていた。
ところがなかなか来ない。イライラして電話すると、まだ家にいるとのこと。
当時、彼女は赤羽に住んでいた。
「池袋まで行けないから、家の近くまで迎えに来て」と言う。
「なんだよっ」と思いつつ、彼女の家の近くまで迎えに行った。
すると彼女は言った、
「ねえ、うちでお茶でも飲んでいかない?母も会いたがっているから」。
僕は困惑した、どうしようか・・・。しかしその誘いを振り切った。
それは彼女のしかけだったのだ。それを僕は迷惑と感じていた。
男のずるさ・・・。今でも僕は「北本通り」では心を棘刺すのだ。

数年を経て東大の卒業式が近くなったある夏の日、井の頭公園でボートに乗っていた。
湖面でいろいろ話が続き、ふと沈黙がふたりを支配した。
その時、彼女が思い余ったように言った、
「わたしの父はやくざなの・・・」。
「えっ!?、何でそんな話するの?」・・・僕は心の中で戸惑った。
それからふたりとも口を閉ざしてしまった。
もちろん、いわゆるヤクザではない。甘い物屋をやっている人だった。
彼女は東大生の僕を勇気をもって試したのだ。僕の彼女に対する思いがどこまでなのか・・・。
しかし、僕はビビった。逃げたくなった・・・。

>>賭け♪

この曲、やばいのだ・・・。

またある日、彼女は言った、
「今、近所のおばさんが、お見合い話をもってきて、しつこくて困ってるの」。
僕は無関心を装って答えた、「ふーん、いいじゃん、その話、乗ったら」。
そう、彼女が僕に決断を迫ろうとしているのは薄々わかってた。
彼女はぎりぎりのところで、僕の真実を求めて、訴えかけていたのだ。
彼女は時間のゲームに疲れていたのだ。
が、僕は彼女の人生の数年間を奪いつつ、ここまで引っ張っていたことに気が付いていなかった。
彼女が僕のために時間を裂くのは当たり前のことだと思っていた。
僕は知らんフリを装った。
男のずるさ・・・。僕は博士号が欲しかったのだ。

>>ダイアルM♪

それからしばらく電話も途絶えた。と言うより、ぼくは逃げていた。ある冬の日、彼女の方からかかってきた。
何気にたわいない話をした後、彼女は絞り出すような声で言った、
「電話・・・、ちょうだいね・・・」、「・・・いいよ」。
それが僕たちの交わした最後の台詞、今でもその声が僕の耳に残っている。

・・・その後、大学院が決まった僕は、今は自分のことしか考えられないと、別れの手紙を書いた。

それから半年後くらいだったか、僕は自分の不実の刈り取りをすることになる。
その知らせを受けた時は、・・・あの話はマジだったのか・・・・
もはやどうしようもない。また電話すればいつでも会える程度に思っていたが、すべては崩れた。それは僕の25歳の日々を完全に無気力と自堕落に追い込んだ・・・。
他の女性とも遊びまわったが、まったく満たされなかった。つねに彼女の面影を追っていた。
すべてが手遅れ・・・。深い喪失感と虚無感にあえいだ。失って分かったのだ。僕にとっての彼女の存在の意味が・・・。
すべては男のずるさゆえ・・・だ。

前にもちょっと書いた。渇いていた当時の写真と共に。この記事にはあちこちから思わぬ反響があって、メールをいただいたり、中にはわざわざ訪ねてきて忠告して下さる人もいた。しかし、すでに30年を経て、僕の内で、彼女に対して証しをしたいとの願いが消せないでいる。どんな人生を歩んでいるのだろうか?幸せなのだろうか?

ファイル 3294-1.jpg

人生の積み残し・・・。僕はどうやったらそれを清算できるのだろうか・・・。今も・・・。

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