法前仏後と神前法後-忘我入在-

これは小室氏の『宗教原論』で言われている。彼いわく、「仏教は法前仏後、キリスト教は神前法後」。なるほどキリスト教と言うよりは、キリスト者の立場はそのとおり。つまりここでも何度も紹介した道元の『正法眼蔵』の「現成公案」に

自己をはこびて万法を修証するを迷とす、万法すすみて自己を修証するはさとりなり。・・・仏道をならふといふは,自己をならふなり。 自己をならふといふは,自己をわするるなり。自己をわするるといふは,万法に証せらるるなり。万法に証せらるるといふは,自己の身心および他己の身心をして脱落せしむるなり。

とあるとおりだ。一言で言えば、自分が法を見出すのではなく、法のうちに俺が見出されること。すなわち、自己を離れて法に身を委ね、任せること。このとき我執が邪魔をする。よって万法に証せらるる要諦は我執を離れること、すなわち心身脱落だ。しかして、この万法に証せられし者が仏なのだ。この時自己を忘れてしまうのだ。

生きているのは、もはやわたしではありません。キリストがわたしの内に生きておられるのです。わたしが今、肉において生きているのは、わたしを愛し、わたしのために身を献げられた神の子信(フェイス)にあってです。-ガラテヤ2:20(私の修正訳)[1] … Continue reading

要するに小室氏も指摘するとおり、仏とは万物の創造者でもなく、礼拝対象でもない。仏教徒にとっては仏とは客体ではなく、任せ切れた者、つまり主体なのだ。かくして法が仏の前にある。しかし「なぜ法があるか」とは問わない。彼らにとってはそれを問うこと自体が迷妄なのだ。しかるにキリスト者はその法のルーツを問う。これが神[2]この訳は小室氏も指摘するとおり、よろしくない。むしろ在者あるいはもっと端的にとでも言うべきで、聖書ではYHWHすなわちI-AMであるであり、すべてはこの人格的存在に由来する。ゆえに在が法の前に来る

仏教の空の理論によれば、世のものはすべて実体がない、ただ因縁によって存在に至っただけのだ。その幻想に心を囚われることが煩悩であり、すべての苦のルーツである。心を何にも留め置かないこと。つまり流れる心。これが覚者である。私は前から何度も言っているとおり、自分を禅者であると思っている。禅が仏教に含まれるならば、別に仏教徒と言われてもかまわない。ここでの問題は私が自分を委ねる法の種類あるいは領域である。それは第一の人アダムから受け継いだ罪と死の法ではなく、最後のアダムにして第二の人であるキリストから受け継いだいのちの御霊の法である。この法に自らを証せられる者が、実はキリスト者であり、その真理集合は必ずしもキリスト教徒のそれとは一致しない。

かくして私は仏を志向する者であり、禅者なのだ。ただ道元と異なるのは、その生きる法の領域の違いである。法に対する姿勢はまったく同一なのだ。面白いことにブラザー・ローレンスも「真に任せた者には苦も楽も同じだ。過ぎ去ったことは記憶に跡かたもない」と証している(⇒神のうちに憩いたい時に)。つまり彼は主にあってサラサラとただ現在に生きていた。後ろを顧みて後悔し、前を思い計って心配するのが凡夫の生。今(NOW)から遊離している。しかし、<今・ここ>にあって、万法に証せらるる者が禅者であり、その諸法の中のいのちの御霊の法に証せられる者がキリスト者である。この姿勢にあって前後裁断せり。永遠の今が展開する。そもそも私たちのいのちの源泉たるなる方は、永遠の現在にいます方なのだ。

いわゆるキリスト教もこの世のひとつの部分と堕している。同様に仏教もだ。牧師が冠婚葬祭に関わり、それを生業とし、坊主も同様だ。ブッダ自身はそのようなものに関わることを厳に禁じている。主も、死人を葬るのは死人に任せよと言われる(Matt 8:22)。今、われわれが見ていることは、まことに世のパーツとなっている宗教システムとそのプロトコルである。共に煩悩に振り回されつつ、<牧師・坊主⇔信徒・檀家>の間のダイナミクス。法を見出し得ず、いわんやとの関わりを知らず、世というマトリックスに幽閉されている姿である。

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1 すでに何度も指摘しているが、「御子に対する信仰による」とする邦訳は間違いだ(対格訳)。その中心は自己であり、「自分が御子を」のベクトルになる。それは道元の「自己をはこびて」であり、それは迷い。そうではなく、御子のうちに自己を見出すこと。これがさとり。ゆえにわれわれは「御子真(フェイス)にあって」なのだ(属格訳)。
2 この訳は小室氏も指摘するとおり、よろしくない。むしろ在者あるいはもっと端的にとでも言うべきで、聖書ではYHWHすなわちI-AMである

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