Dr.Lukeの一言映画評
- 2009/01/12 19:41
- Category: 映画
キューバ革命の若き英雄、医師にして革命家・政治家チェ・ゲバラの自著『革命戦記回顧録』に基づくドキュメンタリー的映画『チェ・28歳の革命』。監督は『オーシャンズ』シリーズなどのスティーブン・ソダーバーグ。徹底的に事実に基づいた映像。いわゆる戦争モノの派手さはなく、淡々として、きわめて写実的。監督によると、チェと戦場を同行する体験を目論んだとのこと。なるほどあたかもキューバの熱帯林の中にいるような臨場感を体験できる。
主演はベネチオ・デル・トロ。役作りのためにチェ(愛称的二人称)に関する資料を7年かかって読み込み、体重も25キロ落とした。チェ本人と瓜二つ(やや古谷一行に似ているか)。デル・トロを初めて知ったのはここでも紹介したブルース・ウィルス主演の『シン・シティ』。あらゆるグロテスクな悪のあり方をモノクロの渇いた映像で描いた作品。2008年アカデミー主演男優賞を取っているが、後半が期待される。
チェは革命を成功した後、キューバのNo.2としてあくまでも民衆の声に基づく民衆のための革命政治を目指すが、体制が固まるにつれ、官僚主義的になり、民衆との乖離を覚え、自身も悩む。かくして彼は「新しい人間(=真正な革命的人間)」なる概念に到達し、「現実主義者であるということは、倫理的・道徳的価値観に立つ犠牲的精神をもってひたすら努力し、不可能なことをやってのけることだ」と言う自身の信念に従って、カストロと別れ、地位と名誉をを捨て、コンゴ・ボリビアの革命に身を投じ、ついには捕えられる。処刑される際、彼は左胸、足の付け根、首の付け根を打たれても絶命せず、最後の止めを刺すべき兵士がビビっているのに対して、「落ち着け、そしてよく狙え。お前はこれから一人の人間を殺すのだ」と言い放った。享年39歳。う~ん、己の信に殉ずる、まさに武士だ。かくして彼は神話化される。
キューバはこの後カストロの指導の下、アメリカの咽喉元に刺さったトゲとして共産主義国家となり、ケネディのピッグス湾作戦の失敗から、キューバ核ミサイル配備危機を経て、暗殺へとつながり、アメリカはベトナムの泥沼へとはまるわけだ。私は小学生だったが、下校時に「赤旗ニュース」の張り紙をよくながめたものだった。あの当時は、戦争に負けた国にまずいながらもコッペパンとマーガリンと脱脂粉乳を援助してくれたアメリカは正義の国で、よって南ベトナムは「いいもん」、対するソ連がバックの北ベトナムは「わるもん」と単純に信じていたものだった。ベ平連運動や安保闘争、さらに東大安田講堂攻防戦をテレビの世界として観ていたわけだが、裏では着々とアメリカの世界戦略が進行していたのだ。そんな当時の私の頭にも「祖国か、死か」のスローガンははっきりと残っている。対米的に政治・軍事・経済の各面で去勢されし国家ニッポンにはすでに消滅して久しいサムライ・スピリットではある。