算数ができない元財務官僚

この記事、元財務官僚の主張だそうだが、なんとも算数が分からないらしい。

さて、ある年度において、次の式は必ず成立する。と言うより、これが定義あるいは事実だから。いかなる流派の経済学者も否定できない。

$$Y=C+I+G+(Ex-Im)=C+S+T$$

$$ (S-I)+(T-G)+(Im-Ex)=0$$

where Y:GDP;C:消費;I:投資;G:政府支出;Ex:輸出;Im:輸入;T:税金

である。第一式はGDPの三面等価を表している。<生産=分配=支出>である。第二式は第一式を変形しただけであるが、その意味するところは、民間収支(S-I)と政府収支(T-G)と海外収支(Im-Ex)の合計がゼロ、すなわち経済はゼロサムゲームであることを示す。経済主体の民間(個人+企業)と政府と海外の誰かが黒字ならば、誰かが赤字なのだ。当たり前である。ある年度に流通するマネーは一定なのだから、そのパイを奪い合うわけ。

このグラフを見てほしい。

青が企業、緑が家計、赤が政府、灰が海外だ。まず気づくことは上下対称であること。上が黒字、下が赤字だが、合計すると常にゼロだ。

次に、バブル以前は家計は黒字で、企業と政府は赤字。つまり企業は家計の貯蓄を借りて経営していた。これが正常な状態。

バブル期はなんと政府も黒字化する。つまり税収>支出だったのだ。企業は借金を大きく増やしている。

バブル崩壊では政府は赤字、企業は借金を返済し始める。家計の黒字は減る。そしてデフレ期(97年以降)になると政府は赤字(赤字国債増発)、なんと企業も黒字化する。つまり借金を返して、さらに内部留保溜め込んでいる。

政府はリーマンショックで赤字を増やしたが、PB黒字化路線で赤字を減らし、企業は黒字のまま、家計は黒字を減らしている。海外はやや赤字を増やしている(日本の海外収支は増加)。

さて、ここで問題。この記事にある通り、個人の貯蓄により政府の赤字を帳消しにするとどうなるか。グラフの緑と赤が相殺して消える。すると棒の長さは上下とも短くなる。つまりマネーが消えるのだ! 言い換えると経済規模、つまりGDPが縮小するのだ。

マネーはそもそもが誰かの負債である。誰かが借金するからマネーが流通する。万札は110兆程度しかないが、これは日銀の負債だ。つまり日銀の借金だが、誰も返済することなど考えないであろう。それこそ返済したら万札は消えるのだ。万札は日銀の借用証書だから!

同じように、国債は国の借金ではなく、政府の借金。しかし、政府と日銀を連結決算すると、国債は消えてマネーとなる。

かくして政府の借用証書である国債と日銀の借用証である万札は同じものとなるのだ。国債はマネーである。これが分からない人はいわゆる金属貨幣観の束縛を受けている。これをアダムの罪と呼ぶ(アダム・スミスの説だから)。かつてはゴールドが担保であり、ゴールドの裏付けがある限りにおいてのみ紙幣は発行された。これがために世界は恐慌の歴史を繰り返した。

が、現在はゴールドの量から自由にされ、貸借関係の証書に過ぎない。銀行が融資する際は、別に預金者の預金から貸し出すのではない。他人の金をどうして勝手に貸し出せようか。仕分けは<貸付金/現金>ではなく、<貸付金/預金>である。借りた方は<預金/借入金>であり、合算すると<貸付金/借入金>。つまりキャッシュとはまったく関係なく帳簿上の操作に過ぎない。銀行は無から有を生み出している。

しかし、相手が返済能力がなかったり、担保がない場合はさすがに貸し付けることはできない。つまり相手の返済能力に応じた額を銀行は生み出すのだ。これが与信だ。要するに流通しているマネーは万札と預金(帳簿の数字)。もちろん預金は紙幣にいつでも変えることができる。が、預金者が全員現金化をすれば、銀行は破綻する。預金の方がはるかに紙幣よりも多いからである。これが取り付け騒ぎ。とりあえず預金者がいつでも現金に変えてもらえると思っているので、これが起きないだけ。

要するに預金は銀行が預金者に負っている債務であり、銀行が債務を負って貸付金としてマネーを発行し、これが流通するわけだ。よってこの債務がすべて返済されたらマネーは消滅する!

国債についてもまったく同じ。海外収支を除いて考えると、政府が借金をするので(=政府収支がマイナス)、民間が潤う(=民間収支がプラス)。逆に政府が黒字とは民間の赤字。そして政府が赤字を減らせば、民間の黒字も減る。かくして政府が借金ゼロにすれば、民間の黒字もゼロ。まさに経済はゼロサムゲームだ。極端に言えば、日銀が負債をゼロにすれば紙幣はゼロだ! マネーの一切存在しない世界と化す。

お分かりだろうか? あなたの頭のマトリックスをシフトする必要がある。そうでないとこの国はタコが自分の足を食って消滅することになるから。

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